掃除機496方式(英語名:HAL496 Systems)による英語などの学習方法を提唱するブログです。英文に関して、解説・対訳などの掲載を中心としています。訳し方は、そのときの状況によるので、直訳っぽいのもあったりします。転載及び2次使用可。(C) no rights reserved / aucun droits réservés / keine Rechte vorbehalten / 著作権全面放棄

4.01.2008

The Twelfth Angel

CROWN II Reading 2
The Twelfth Angel
12番目の天使

160A
「ジョン……ジョン……。

いるんだろ?

ジョン、おれだよ、ビル=ウエストだ。

聞こえるかい?」

160B
だれかが外で呼んでいる。

160C
ビル=ウエストか?

まさか?

彼はいちばんの親友だったが、もう何年も逢っていない。

160D
「おい、昔なじみさんよ。

やっとこさ見つけたぜ!

おれだよ」

160E
私たちは中に入り、腰かけた。

ビルは数分間、口をきかなかった。

160F
「とても残念だと思うよ、ジョン」とビルが言った。

「おれは、奥さんと息子さんを亡くしたと聞いて、たいへん悲しく思っているんだ。

大丈夫かい?」

161A
「ビル、気をつかってくれてありがとう。

実をいうと、あまり元気じゃないんだ。

ずっと悲しくて疲れているんだ。

生きる気力さえほとんど失いかけているんだ」

161B
最終的にビルが「おれが来たのには理由があるんだ、ジョン。頼みがあるんだ」というまで、再び、私たちは沈黙した状態で坐(すわ)っていた。
→再び、私たちは黙ったままで坐っていたが、ようやくビルが「おれが来たのには理由があるんだ、ジョン。頼みがあるんだ」と言った。

161C
「なんでも言ってくれよ」

161D
「リトル=リーグで一緒に試合をした最後の年だ。

憶えているかい?

1試合すら負けなかった」

161E
「もちろん、憶えているさ。

おれたちはエンゼルスのメンバーだった」
*the Angelsは「エンジェルス(球団名)」と註がついているが、大リーグのLos Angeles Angels of Anaheimは普通「ロスアンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム」と表記するので、「エンゼルス」としてみた。日本のリトルリーグでも「エンゼル ス」が一般的。また、原音に近づけるのであれば、「エィンジェルズ」となりそうだが。

161F
「エンゼルスには今年、監督がいないんだ。

君なら、優秀なリトルリーグの監督になれると確信しているよ、ジョン。

おれも手伝うし」

161G
どのくらい長い間だったかわからないが、私は目を閉じていた。
*for I don't know how longは、たとえば、for two minutes(2分間)のtwo minutesの部分にI don't know how longが置かれたもの。

リトルリーグの監督として新しい生活を始めるための時間とエネルギーとを、どうやって見つけることができようか(いや、できるわけがない)。
→リトルリーグの監督として、新しい生活を始めるのに必要な時間と精力が一体全体どこにあるというのか(いや、、ありはしない)。

妻と息子を亡くしてしまって、私はあまりにも多くのものを失っている。

しかし、そのとき、「トライアウト[=適正試験]は土曜日の朝だって言ったよね?」と自分が(ビルに)訊ねているのを私は耳にした。

161H
私たちはチームを結成し、練習を開始した。

私たちは毎週2回、午後4時から6時まで練習した。

162B
最初の練習で私たちがどれほどのことをしたのかは、私にとって驚きであった。

ほとんどの選手は素晴らしかった。

トッドがピッチャーだった。

アンソニーとポールが内野手だった。

チャールズとジャスティンが外野手だった。

キンブルがキャッチャーだった。

162C
少年たちのうちのひとりはティモシー=ノーブルという名前だった。

彼はチーム(のメンバー)を選ぶときに、最後に選ばれた少年だった。

彼はボールを狙って打ち、すべてを打ち損じた。
→彼はボールをすべて空振りした。

ゴロは股(また)の間をすり抜けて行った。

フライは彼の後方で、遠くまで転がった。

練習後、ほかの少年たちが即座に、自分の自転車めがけて駐輪場へと競うように駆け出したり、あるいは車での帰宅のために親に会おうと競うように駆け出したりしたときに、ティモシーは、バットを手に、たいへん心配そうな様子で、バッターボックスになおも立ち続けていた。

162D
「ティモシー、ちょっと話ができるかな?」

162E
「もちろんです」と彼は言った。

162F
「君が一所懸命に練習すれば、立派な野球選手になれると思うよ。

たくさん練習すればするほど、どんどんよくなるんだ。

言ってくれないかな、練習後、私と一緒に、しばらくやってみるのはどうだい?」

163A
「ぜひともやってみたいです」と、下唇を噛(か)みながら彼は言った。

163B
「だから、教えてほしいんだけど、ティモシー、今までずっと野球をやってきたのかい?」

163C
「いいえ。ぼくたちは長い間、ドイツに住んでいて、ドイツの子どもはみんなサッカーをするんです。

ぼくはサッカーが好きだったけど、あまりうまくなかった。

そんなに速く走れなかったんです。

そのあと、ぼくたちは、去年、合衆国に戻ってきました。

それからママが離婚したんです」

163D
「ということは、野球は1年かそのくらいしかやっていないということだね?」

163E
彼は頭を縦に振って[=うなずいて]「はい」と言った。

それから、彼は叫んだ。「毎日、毎日、あらゆる面でぼくはどんどんよくなってる!」

163F
「なんて言ったんだい?」

163G
「毎日、毎日、あらゆる面でぼくはどんどんよくなってる!」

163H
私は自分の耳が信じられなかった。

この小さな少年がどこでそんなことばを憶(おぼ)えたのであろうか?

163I
「ティモシー」と私は訊ねた。「君はどこでそのような言い回しを憶えたんだい?」

164A
「メッセンジャー先生からです。

病気になったときに、メッセンジャー先生はぼくやママの面倒をよく見てくれます。

毎日、何度もこのことばを言い続けたなら、自分のしていることはなんでも、たとえ、野球をするのにしても上手になるだろうって、先生が言っていたんだ。

でも、実を言うと、あまり効き目がないんだ。

もっと練習しなきゃと思っているんだ」

164B
「先生はほかのことばも君に教えたのかい?」

164C
ティモシーはうなずいた。

「絶対……、絶対……、絶対……、絶対……、絶対……あきらめるな!」

164D
「君はそのことばを信じているのかい?」

164E
彼はうなずいた。

「ぼくは絶対にあきらめないよ」

164F
練習後に、毎回、私たちは、基本練習に取り組んで、特別な30分間を過ごした。

私が彼に向かってボールを投げると、すぐに10球を連続して捕球できたものであった。

打球に向かって移動する前に、ボールを目で捉(とら)えることができるようになるためには、彼はずっとたくさんの時間がかかるようであった。

また、彼は非常にゆっくりとしか走れず、走れるように一所懸命に練習しなければならなかった。

164G
まもなく、私たちはほかのチームとの試合を行ない始めた。

164H
試合の前に、ティモシーは「ぼくたちは絶対にあきらめないぞ!」と叫んだものであった。

165A
すると、チーム全員が「絶対あきらめるな、絶対あきらめるな、絶対あきらめるな!」と叫んでいた。

165B
エンゼルスはたいへんよいチームであった。

彼らはほとんどの試合で勝った。

ティモシーは決して、本当にはすばらしい野球選手になることはなかったが、しかし、彼はいつでも懸命に努力した。

いよいよ、優勝決定の日であった。

エンゼルス対ヤンキースである。

165C
両方のチーム(の選手)がグランドに姿を現した。

観客席からは声援と口笛が響いた。

エンゼルスはやンキースを相手に健闘したが、しかし、9回裏、1対1だった。

2アウトだった。

3塁に選手がいて、ティモシーが打席に入っていた。

今や、観客席からは声援も口笛もまったくなかった。

だれもが黙ったまま、待ち受けていた。

ストライク=ワン。

ストライク=ツー。

そして、それが起こったのだ。

ティモシーが初ヒットを放ったのだ。

エンゼルスが選手権を勝ち取った。

165D
試合後、ティモシーが選手権のトロフィーを手に、わざわざ私のところに競うように走ってやって来た。

165E
「監督、ぼくたちが勝ったよ! ぼくたちが勝ったんだよ! なにもかもありがとうございます」

166A
「君は私に感謝する必要はないよ、ティモシー。私のほうこそ君に感謝するよ。私が君にしたことよりも、ずっと多くのことを君は私にしてくれたんだ」

166B
「ぼくが、ですか?」と彼は訊ねたが、明らかに困惑しているようだった。

166C
「そうだとも、君はしてくれたんだよ」

妻と息子の死と、生きる意志の喪失について私は少年たちに話していなかった。
→妻と息子を亡くしたことと、生きる気力を失っていたことを私は少年たちに話してはいなかった。

チームとともに、そしてティモシーとともに、毎日、毎日、取り組むにつれて、私はどんどんよくなった。

166D
2週間後、メッセンジャー先生が私の家を訪ねてきた。

数分にわたる世間話があっただけだった。

メッセンジャー先生は、最後に、深刻そうに話し始めた。

166E
「ジョン、申し訳ないが、悲しい知らせがあるんだ。

ティモシーには脳疾患があって、私たちが彼のためにしてやれることはなにもないんだ。

彼の母親は、彼ができるうちは、毎日の予定[=普段の生活]を続けさせようと決めた。

そのことはティモシーをたいへん喜ばせた。
→そのことで、ティモシーはたいへん喜んだ。

私たちが彼の問題についてだれにも言わないようにと彼は私たちに約束させた。

自分がまもなく死ぬのだということを知ったからといって、自分のことを気の毒だとだれにも思ってもらいたくないし、特別扱いもされたくもないと彼は言ったんだ」

167B
「先生、ティモシーは自分が死ぬのだということを知っていると私におっしゃりたいのですね?」

167C
「彼は知っているよ」

167D
「先生、この野球のシーズン全体を。

先生もごらんになったでしょう。

あの子は、努力することを決してやめなかったし、それに彼はチームメートにいつでも声援を送っていました。

憶えているでしょ、『毎日、毎日、あらゆる面で』と『絶対、絶対、絶対あきらめない』を?

たとえ、自分がもうすぐ死ぬのだということを知っているとしても?」

167E
その次の朝[=翌日の朝]、私はティモシーに逢いに行った。

167F
「監督が来るのはわかってたよ。わかってたよ! わかっていたんだよ!」

167G
「ティモシー、これ以前に君に逢いに来ていたところなんだがね。

メッセンジャー先生が教えてくれるまで知らなかったんだ」

167H
「ぼくがもうすぐ死ぬって、先生が監督に言ったの?」

168A
私はどう答えればよいのかわからなかった。

ようやく、私はただうなずくだけであった。

168B
「でも、ぼくの願いがかなったんだ、監督。

ぼくは神様にお祈りしたんですよ、もちろん。

全部の試合に出場できて、ヒットを打たせてくださいって、神様に頼んだの。そしたら、できちゃった。

本当にできちゃったんです。

監督と神様に感謝します。

それから……多くの猛烈な努力と練習にも(感謝しなくちゃ)。

168C
私は彼が亡くなるまで、週に何度か彼に逢いに行った。

168D
ティモシーの母親は小さな墓石を選んだ。

そこにはつぎのように書いてある。

---
ティモシー=ノーベル

1979年3月12―1991年4月7日

彼は絶対、絶対、絶対、あきらめなかった!
---

〔了〕

『十二番目の天使』オグ=マンディーノ著/坂本貢一訳/求龍堂
原作の邦訳。ストーリーの進み方がちょっとかったるいかもしれないが、それだからこそ、最後で泣ける。また、教科書の英文では飛ばされている箇所を読むこ とで、ああ、そういうことかと納得できる部分がある。ただし、教科書の結末と、原作の結末は違っているんだけど、そこまで書き換えていいのだろうかという 疑問もある。
また、原作は講談社英語文庫で『十二番目の天使―The Twelfth Angel』が出版されている。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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