CROWN II Lesson 6
Singlish Bad; English Good
シングリッシュ 悪い;イングリッシュ 良い
醜悪な言語などというものは存在しない。
――エリアス=カネッティ――
0.
アメリカ英語、イギリス英語、インド英語、それほかにもいくつかの「さまざまな種類の英語」がある。
どれかひとつがほかのものよりもよいのであろうか?
ここにシンガポールでの『立派な英語を話そう運動』についての新聞記事がある。
1.1
シンガポール発――シンガポール政府は、シングリッシュはちっともよくなく、その国民は立派な英語の話し方を習得しなければならないと述べている。
政府がその国民に立派な英語を話させることは可能であろうか?
1.2
シングリッシュとして知られている方言を取り除くために、シンガポールの指導者たちは『立派な英語を話そう運動』を始めた。
1.3
このプロジェクトは、それが思われるよりも[=一見したところよりも]難しいかもしれない。
言語は変化するものであるというのは、言語というものの一生についての事実である。
英語が世界で発展するにつれ、それ[=英語]は「イングリッシーズ(さまざまな種類の英語)」と呼ばれる新たな方言を生み出しつつある。
1.4
シングリッシュはそうしたもののうちのひとつである。
タグリッシュ、すなわち英語とフィリピンの言語のひとつであるタガログ語との混ざったものも、そうである。
とりわけインドとジャマイカとナイジェリアにはずっと多くのもの[=新たな方言]が存在するのであるが、それらの国々はみなかつて英国に属していた。
1.5
「シングリッシュ、だれにでもおんなじ」とニオ=ローレインは述べたが、彼女はほかのタクシーの運転手と同様、シングリッシュを話すのが上手である。「シンガポール人、だれでも話すね。あたしもよ。方言ないわる」
1.6
ローレイン女史は、変革の必要性を見て取っていると述べている。
orローレイン女史は、変革の必要性を理解していると述べている。
「あたしたち、小さい国なので、組織化しなければならない」と彼女は言った。「厳格なのはいい。それがすばらしい街がある理由よ」
*「組織化しなければならない」のところは「団結しなければならない」「まとまらなくてはならない」などでもよいと思う。
2.1
世界中の至るところには、英語のネイティブスピーカーよりも中国語のネイティブスピーカーのほうがたくさんいるが、しかし、英語はずば抜けて世界の最も支配的な第2言語である。
2.2
今日、3億5000万人もの人間が母語として英語を話しているが、しかし、10億人以上がそれ[=英語]を第2言語として、最低でも少しは話している。
彼らのうちの大半はアジアにいる。
2.3
しかも、西洋の音楽やファッションや食品や政治によくあることだが、アジアの人々はその言語[=英語]を変えつつある。
2.4
「今や、英語を前へと動かしつつある[=前進させつつある]のはネイティブスピーカーではありません」とインターナショナル=イングリッシュ[=国 際英語]の教授であるラリー=スミスは述べた。「それ[=英語を前進させつつある人々]は、ノン=ネイティブスピーカーであり、シンガポールの国民であ り、マレーシアの国民です」
2.5
標準英語は400万人というシンガポールの住民の共通語であり、マレー語と北京官話[=標準中国語]とタミル語をも含む4つの公用語のうちのひとつである。
シングリッシュはこれらすべての部分を組み合わせている。
*この英文の意味がよくわからなかったが、英語以外にマレー語や北京官話やタミル語のことばや言い回しを取り入れているということらしい。
それ[=シングリッシュ]は簡素で明晰である。
(シングリッシュは)要点を衝くのである。
2.6
コーヒーありまっか?
ありまっせ!
2.7
「私たちが世界を理解し、世界が私たちを理解すうることができるように私たちは英語を学んでいるのです」とシンガポール政府の指導者は述べた。
「標準英語を読んだり書いたりすることは重要です。
標準英語はまた、多くの言語を使用する国家でのコミュニケーションの共通の形式でもあります。
もしもわが国民のうちの教育を受けていない半分(の人々)がシングリッシュだけを話すことを学ぶことで終わるのであれば、彼らは経済的にも社会的にも苦しむでしょう」
2.8
英語はインターネットの言語であり、映画や音楽の言語であり、航空機や海上の船舶の言語である。
→英語はインターネットで使用される言語であり、映画や音楽で用いられる言語であり、航空機や海上の船舶で使われる言語である。
それ[=英語]は国際的なビジネスに必要とされている。
3.1
ラテン語がフランス語やイタリア語やスペイン語やその他の言語へと分化したように、方言へと分かれていき、その後、新しい言語へと分化していくのは、広範囲に亙(わた)って話される言語の本質である。
このことは英語の未来であるかもしれないとスミス氏は語った。
3.2
世界のイングリッシーズ[=さまざまな種類の英語]は、その本拠地[=それが話されている地域]の必要と特色と言語上の祖先とを反映する。
3.3
「シンガポール的な感情を表現するために私はシングリッシュを必要としています」と、ある種類の「英語」から別の種類の英語へとたやすく移動する著名な作家であるキャサリン=リムは述べた。
3.4
シンガポールの新しい計画において与えられている英語の授業を奨励するための最良の方法は、シングリッシュでの、別のタクシー運転手ロー=ペン=ホンによるつぎのアドバイスに従うことである。
3.5
「あんたは勉強しに行かにゃならん」と彼は言った。
「もしそうやないと、人々はあんたに話しかけたいと思っても、あんたはわからへん。
人々はあんたを叱るけど、またもやわからへん」
3.6
あるいは、英国のチャールズ皇太子が最良のクイーンズ=イングリッシュでこのことを表現したように(つぎのように言えばよいであろう。)「わたしく どもは少しばかり注意深くならなければならないとわたくしは存じます。さもなければ、ものごと全体はいくぶん混乱する場合もあるでしょう」
4.1
すでに、スミス氏が述べているのだが、世界のあちこちには、英語は自分の第1言語であると主張するのだが、しかし、互いに理解し合えない人々――た とえば、インドの英語教師と、フィリピンの(別の)英語教師と、ナイジェリアの(これまた別の)英語教師――そうした人々が数百万人いる。
*「たとえば、インドの英語教師と、フィリピンの(別の)英語教師と、ナイジェリアの(これまた別の)英語教師」の部分は、むりやりanotherやa thirdの意味を出さずに、「たとえば、インドとフィリピンとナイジェリアの英語教師」としてもよいかと思う。
4.2
スミス氏によれば、英語のどの方言も等しく正当であると言語学者たちは考える。
4.3
「世界の英語に関することがらのうちのひとつは、英語は、今やそれを使用する者であればだれであっても、その人のものであって、たんにネイティブスピーカーのものではない」と彼は言った。
「だからシングリッシュを使用する者は、彼[=シングリッシュ使用者]が自分の言いたいことがわかっており、彼の話を聴く者によって理解されるという意味であなたと同じくらいに正しいのです」
4.4
英語が第2言語として広まっているので、それ[=英語]は英国やアメリカとのつながりを置き去りにしてしまっている。
4.5
今日のアジアで英語を話す人の大半はネイティブスピーカーとコミュニケーションをとるためではなく、ほかのアジア人とコミュニケーションをとるためにその言語[=英語]を用いる。
4.6
「今日、ますますより少ない人々が、イングランドかまたはアメリカのどちらかの見地から英語について考えます」とワン=グンウー国立シンガポール大学教授は述べた。
→「今日、イングランドかまたはアメリカのどちらかの見地から英語について考える人はますます少なくなっています」とワン=グンウー国立シンガポール大学教授は述べた。
「滑稽なことのように聞こえるかもしれませんが、しかし、新興のアジアの中産階級のアイデンティティの一部なのです」
〔了〕
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