CROWN II Reading 1
The Dance of Chicken Feet
鶏の足のダンス
76A
私が1年生の小さな女の子だったとき、先生は『想像力ゲーム』を私たちにさせたものだったわ。
先生は私たちに目を閉じるように言った。
それから、先生はあることについて話し始めた。たとえば、森の中の散歩とか、外国を訪れることとか。
「みなさんには何が見えますか?」と先生は訊(たず)ねた。
76B
同級生たちは叫びました。「木だ! 花よ! 万里の長城だ!」
*邦訳では、この部分は、正確なことばづかいは忘れたが、
「木だ!」「花よ!」「万里の長城だ!」
と3つの台詞にわけていたと記憶する。
76C
それから、先生は、私たちに目を開けさせました。
「これが想像力のすばらしい力なのです」と先生は私たちに言ったものでした。
「想像力を使えば、家を出ることなしに外国へと旅行ができますし、ほかにだれも目にしたことがないものを目にすることもできますし、雲の上を飛ぶこともできるんですよ!」
それから先生は私たちに目を閉じるように言い、私たちは『想像力ゲーム』をしたものでした。
77B
たったひとつの問題は、私にはなにも見えなかったことです――暗闇だけ(が見えました)。
ときには、同級生を目の片隅から見たりしたものでした。
→ときには、同級生をちらっとのぞいたりしたものでした。
そこに、クラスメートたちはいて、小さな指を両目に押し当てて床に坐(すわ)っていました。
私は同級生たちが見ているにちがいないすばらしいものについて考えました。爪先が上に曲がっている赤い靴を履いた、全身黒づくめの中国人の男性たち とか、川から外を眺めている鰐(わに)とか、おかしな帽子の(鍔(つば)の)下から赤い目で覗いていて、それから地面の深い穴に姿を消していく小さな男 [=小人]とか。
どうして私にはこうしたものが見えなかったのだろうか?
私は再び目を閉じた。闇(しか見えなかった)。
77C
ある日、私は先生に言った。
「あのね、先生、私たちが『想像力ゲーム』をするとき」と私は言った。「ええっと、なにも見えないの」
78A
「なにも見えないですって?」と先生は訊ねた。
78B
「闇しか見えないんです」と私は言った。
78C
先生は母を面談のために呼び出した。
「お子さんには想像力がまったくないようです」と先生は母に言った。
「もちろん、ほかのやり方で漫画部でしょうが。
お子さんは数学や理科を学習することができます。
しかし、人生において、お子さんにとっては大きな問題となるかもしれなせん」
78D
母はあまり気にしていないようだった。
でも、私は心配だった。
私は同級生のように遠くの国へ旅をしたいし、ほかにはだれも見たことがないものを見てみたいし、雲の上を飛んでもみたかったのです。
私は自宅で練習しました。
私は自分の部屋で坐(すわ)り、『想像力ゲーム』をしたものでした。
私は自分自身に物語を話したものです。
それから、私は強く自分の目を閉じました。
なにも見えませんでした。
78E
とうとう、私がまさにあるものを目にする日がやってきました。
片方の目の裏側で、私はくねくねした線のようなものを見つけました。
目を向けると、それは動いたのです。
「これこそ、あれだ!」と私は思いました。
「私にも想像力があるんだわ!
もしも私が充分に懸命にがんばりさえすれば、私はそれ[=くねくねした線]を、草原の乳牛とか、白い花を摘んでいる赤いドレスの少女に帰ることができるわ」
しかし、そのあと、極端に視線を上げると、くねくねした線は消えてしまいました。
79A
しばらくして、私はあきらめました。
同級生たちが『想像力ゲーム』をするとき、私はただ、目を閉じたまま、静かに坐(すわ)っていました。
ときには、ただふざけて、もっともらしいことを叫んだものでした。
「魚を捕まえている鷲(わし)だわ!」と私は言ったものでした。
「少年と褐色(かっしょく)の乳牛が見えるわ!」
79B
先生が「たいへんよくできました」と言うと、私は罪の意識を感じたものでした。
79C
そうしたある日、先生は人魚についての話を私たちにしました。
人魚はとても美しくて、(人間の)男性はひと目見ただけで人魚に恋をしたのです。
私は同級生たちと一緒に、目を閉じた状態で、床に坐(すわ)っていました。
私は、実のところ、自分の闇を楽しむようになっていたのです。
それから、突然、ある映像が現れました。
それは私の視野に流れ込んできて、それ自体に焦点を合わせ、闇の中で輝きました。
→それは私の視野に流れ込んできて、焦点が合い、闇の中で輝きました。
79D
それはひと組の巨大な鶏の足でした。
鶏の足は、ちょっとの間、爪先(つまさき)を内側に曲げた状態で、そこにいました。それから鶏の足は行ってしまいました[=消え去りました]。
そのつぎに私たちが『想像力ゲーム』をしたとき、私は自分の場所でうれしそうに坐(すわ)り、鶏の足のダンスを眺(なが)めました。
80B
何年も経ちました。
私は大きくなり、自分自身が1年生担当の教師になりました。
私は『想像力ゲーム』とあの巨大な鶏の足のことはほとんど忘れていました。
80C
そして、先週、重要な子どもの本の作者が私たちの学校を訪れました。
生徒たちはたいへんわくわくしていました。
生徒たちはその作家の本すべてを読んでおり、色鉛筆でその作家の絵を描いていました。
8時30分には、だれもがその作家のスピーチを聴くために講堂に集まりました。
その作家はとてもかわいらしく、きらめく宝石とかわいらしい服を身につけていました。
作家は黒板の上に絵を描きました。私たちに最新刊の本を見せてくれました。印刷技術について説明しました。
私は感銘を受けました。
生徒たちは魅了されました。
80D
スピーチの最後に、作家は両手の指を組み合わせ、子どもたちのほうへと身体を傾け、子どもたちに微笑みかけました。
「さて」と彼女は言いました。「私と一緒に、ちょっとしたゲームをみなさんにしていただきたいと思います。みなさんはゲームをするのが好きですか?」
80E
「あら、困ったわ」と私は思いました。
80F
「はい、好きです!」と子どもたちが叫びました。
80G
「それは『想像力ゲーム』と呼ばれています」と作家が言った。「さあ、目を閉じてください」
彼女はキャンプ旅行に関する話を生徒たちにしました。
「何が見えますか?」と作家が訊(たず)ねました。
81B
子どもたちは強く目を閉じました。
かわいい指が(目を)強く圧(お)しました。
とうとう、だれかが「テント?」と言いました。
81C
「テント! すばらしいわ!」と有名な子どもの本の作者が言いました。「ほかになにか(ありませんか)?」
81D
「池!」
81E
「キャンプファイヤー!」
81F
「これこそが想像力のすばらしい力なのです」と作家は子どもたちに言いました。「それ[=想像力]はみなさんにとって最も重要な財産なのです。みなさんは決してそれ[=想像力]を失ってはいけません」
それから作家はさようならを言い、私たちは自分たちの教室へと戻っていきました。
81G
子どもたちは一緒に床に坐(すわ)りました。
私は全員の注意を集めました。
「実際にはなにも見えなかったとしても心配しなくていいわよ」と私は子どもたちに言った。「もしも闇しか見えなかったとしても、厳しくて悲しい人生になるわけじゃないわ」
*後半の台詞の直訳:そのことは、みなさんが辛く、悲しい人生を生きるということを意味するわけではありません。
大部分の子どもたちは、私が話していることをわかっているわけでも、気にしているわけでもないようでした。
しかし、子どもたちのうちの数人が安心したようだということを私は想像しました。
私はまるで正しいことをしたように感じていました。
82B
その日の午後、放課後に、生徒のひとりが私のところにやって来ました。
その生徒は少し緊張しているようでした。
82C
「あのね、先生、私たちが『想像力ゲーム』をしたとき」とその生徒は言いました。「私にはまさにあるものが見えたんです」
82D
「あなたにはあるものが見えたって?」と私は訊(たず)ねました。「あなたには何が見えたの?」
82E
「鶏の足です」と彼女は言いました。「巨大な、踊っている鶏の足なんです」
〔了〕
The Dance of Chicken Feetの原作の翻訳は『ママは決心したよ!』(ベイリー=ホワイト著/柴田裕之訳/白水社)に載っている。アメリカではものすごく売れた本だそうだ。「すっごくおかしい」らしい。中野区立図書館にあるよ。
0 件のコメント:
コメントを投稿